懐かしさに似た

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懐かしさに似た

「停めろ」 いつも通りの道、いつも通りの街、弟分のいつも通りの運転。 すべてが普段通りで見逃してしまいそうな風景の中、淡い黄緑色の着物を見つけ晋哉は声を出した。突然にも関わらず車はゆるやかに減速する。 「ここで待ってろ」 「へい」 路肩に停めた車から降りた晋哉は、目の前のスーパーに近づく。着物姿の人物のすぐそばに来ると、棚に戻されたアスパラガスを持ち上げた。 「今日はパスタか」 晋哉が用もなく話しかけるのは初めてだった。晋哉も自分の行動に驚きを感じているが、突然そばに来た男を仰ぎみたみつきは、顔にはっきりと驚きを浮かべた。 「何か足りないものがあればこれで買え」 アスパラガスをカゴに入れた晋哉は、ついでだと言わんばかりに高額紙幣を渡す。 まだ驚きを処理できていないみつきに握らせると、背中を向けた。 「……今日は帰る」 余計なことを言ったとすぐに後悔し始めた晋哉だったが、後ろで頷く気配に、ふっ、と微かに息を吐く。 それ以上は何も言わずに、停めていた車に乗り込んだ。 「出せ」 サイドブレーキを解除した車はゆっくりと発進する。スーパーからどんどん離れていく車の中で、晋哉は窓の外を眺めた。 「飯を用意するって、そういうことか」 小さく呟いた声に、運転している弟分はミラー越しに晋哉を見る。 「なんです、兄貴」 「なんでもねえ」 晋哉にとっては都合がいいだけの存在。それがみつきだった。 帰ればあたたかい食事が用意され、他の家事もする必要がなく、部屋を与えているだけで何も要求されないし、あっちから声をかけてくることも無い。 晋哉がいるときは部屋にいるのか分からないほど、みつきは静かだ。初めは他人を家に置くのが嫌だった晋哉も、自分の時間やスペースに入り込んでこないみつきに、案外快適なものだと拍子抜けしたほどだ。 みつきもみつきで、与えられた役割を最低限に淡々とこないしているのだろうと、晋哉は思っていた。 しかしさっきスーパーで見かけたみつきの様子は、晋哉が想像していたものと違っていた。 アスパラガスを片手に悩む横顔。帰ってくるかわからない晋哉の食事に頭を使う必要は無いし、惣菜を並べるだけでもいいはずだ。 思い返してみれば、今まで同じ料理が出されたことは無い。似た料理でも少し具材や味付けが違っていた。 「毎日あんな顔をしてたのか……」 今日のアスパラガスが昨日はトマトだったかもしれない。具材を選んで、悩んで、俺のための飯を用意していた。 今まで、自分のことを思い浮かべて何かをしてもらったことの無い晋哉にとって、食材を片手にするみつきの表情は予想外なものだった。 自分のことを考えて作られていたのだと思うと、みつきが用意した今までの食事がただ空腹を満たすためだけのものではないような、不思議な気持ちになる。 今はまだみつきが居る生活は、ひとりで住んでいた時より楽だとしか思わない。しかしそれこそが、晋哉の中でみつきへの意識が少し変わり始めているのを示していた。
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