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いつのまにか、白い部屋に来ていた。白いソファに座っていた。
隣に誰かが座っていた。黒い帽子をすっぽりかぶり、黒いコートをまとった人だった。身体つきからしておじさんだろうと由美子は思った。由美子は、食べかけのクッキーを置いて来てしまったことが悲しくて涙が止まらなかった。おじさんは黙って由美子のすすり泣く声を聞いていたが、やがて金属の箱のようなものを差し出してきた。
「泣かないの泣かないの。これをあげようね」
幼稚園児の由美子にぴったりの、掌サイズのオルゴールだった。由美子の掌にのせると音色は白い部屋にひびき始めた。なんの曲かわからなかったが、美しい音色は由美子の鼓膜の中で優雅におどった。オルゴールの両はしにはガラスでできた太陽と月の紋章がそれぞれかたどられていた。どちらにも文字が書かれているが、読めなかった。おじさんは手を伸ばして、紋章を愛おしげに撫でた。
「世界は、この二つが全てだ。陰と陽。裏と表。そして生と……」
由美子は太陽の紋章をじっと見た。何も感じない。だが月を見た時、ふいに、今まで読めなかった文字が頭の中で、おじさんの声でひびきはじめた。
おじさんとオルゴールの正体を知ってしまった由美子は、顔をあげておじさんを見つめた。
了
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