夕立と虫の調べ

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 シャワシャワシャワシャワ……  百年記念式典の当日、管理局には朝から市民の問い合わせが殺到した。  外から異様な音がする、発電所で事故が起こったのでは? ドーム内の気温が高めなことも影響してか、苛立ち混じりの問い合わせも少なくない。 「ちょっとやりすぎたんじゃないか?」 「虫はこれからドーム内に散らばります。そのうち落ち着きますよ」  コムシン局長は、悪びれる様子のないアイゼンを恨めしげに見た。  式典は正午から始まった。  会場となった記念公園には大勢の市民が詰めかけた。道路や建物の窓際、バルコニーにも、上空をうかがう多くの人々の姿が見える。ドーム内には、気象アートへの期待が充満しているようだった。 「緊張してます?」 「……とっても」  ステージ脇に待機しているシシリカは、アイゼンの問いに涙目で答えた。 「気象は本来、人間の自由になるものではありません。人類が地球を離れたのも、気候変動が原因の一つだったとか……。作品(プログラム)だって、気温や湿度のちょっとした変化で駄目になってしまうことがあるんです」  自分で言っておいて不安の増したシシリカは、両手を握りしめた。 「大事な式典なんだから、成功させないと……」 「大丈夫ですよ」  アイゼンは公園内の木を指した。周りに人々が集まっている。 「あそこに、ツチムシの成虫がいます。この声はヘロヘロかな。みんな興味津々ですよ。食べ物ではなく、生き物として。先生のおかげです」  子どもが何か質問している。端末で動画を撮っている人もいる。ヘロヘロが飛び上がると、わっと歓声が上がった。 「作品の半分は成功……ってことでしょうか」  シシリカが言うと、アイゼンはうなずいて笑った。 「もう半分も成功しますよ。自信持ってください」  式典のクライマックスとして、そのときがやってきた。  紹介を受けて壇上に上がったシシリカは、勇気を振り絞り、口を開いた。 「この作品は、エンブの暮らしと文化からインスピレーションを受けて作られました」  会場のそこかしこで、局員が人々を誘導している。アイゼンも今はあの中にいるはずだ。 「エンブでは、人と虫とが密接に結びいています。それは、かつての地球文化に通じるものです。私たちはこの作品で、地球の輝かしい夏の一日を再現したいと思いました……。では皆さん、大切な人と腰をおろして楽にしてください。そして、耳をすませてください……」  シシリカが口を閉じると、聞こえるのはツチムシの鳴き声だけになった。単独で鳴いていた一匹に他のツチムシが追従し、ドーム中が歌声で満たされる。  同時に、空に変化が起こった。見慣れた薄黄色の天頂に朱がさしたかと思うと、見る見るうちに色を変える。地上の人々は、茜色に染まる空を見て感嘆の声を上げた。
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