606人が本棚に入れています
本棚に追加
どこか嬉しそうに走っていく美里の後ろ姿を見て、ぼんやりと羨ましく思った。好きな人のところに走って行ける、こんな普通のことが私には出来ないんだ。忘れていた悲しい気持ちが蘇ってくる。いつか神崎に彼女ができたとして、私はこうやって笑って送り出せるのだろうか。
「……さ、私は他の友達にでも声かけようかな」
そんな自分を誤魔化すように独り言を言うとパンフレットを開く。ええっと、この時間自由なのは誰がいたっけ……
「七瀬」
聞き覚えのある声がしてびくんと背中が反応する。ここずっと私の名前を呼ぶことのなかった声だ。
恐る恐る後ろを振り返る。そこにはやはり、私の好きな彼が立っていたのだ。高い背、短髪の黒髪。目が線になるように笑った神崎は、私のすぐそばに立っていた。
突然静かだった心臓がびっくりするくらい高鳴った。同じクラスだからそりゃ顔は毎日見てる。でも、こうやって正面から向き合うのはひどく久しぶりな気がする。あの廊下以降、全然話せていなかった。
緊張した心がバレないように、私はぐっと平然を装う。ここ最近予知は見ていない、でも彼から告白を受けないように注意しなくてはならない。
最初のコメントを投稿しよう!