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残されたものたちは、動揺した。
やはり、宇宙に出るのはまだ早かったのだろうか。
否定するだけの材料をかき集めてから、再び、人類は宇宙に挑みかかった。
そして、初回よりもさらに勇気ある人々は、新しい惑星を発見した。
すぐお隣に、おあつらえ向きの惑星があった。
人類の生命活動に不可欠の水を湛えた美しい星。
さらにそのお隣の星も、工夫次第では住めそうな星だった。
実に、ラッキーだった。
二つも、植民可能な惑星が発見されたのだ。
お隣の惑星はナジェルといい、さらに隣の惑星はディストニアと名付けられた。
かくして、植民が開始された。
あまりにも増えすぎた人類は、このままでは地上を食べ尽くし、さらにその排泄物で地上を覆ってしまうかもしれないと、経済学者が指摘していたからだった。
植民は、困難を極めた。
今まで環境に体をあわせて進化してきたというのに、次は、体に合わせて環境を大改造するという、未曾有の大事業が人類を待っていたのだった。
困難があればあるほど、燃えるというのが人類の基本資質らしい。
初期開拓者たちは、がむしゃらに頑張った。
今でもそのころの伝記には、必ず木綿のハンカチが(もちろん涙を拭くために)付録でついてくるほどだ。涙ぐましい(この涙も貴重な水分だった)努力のお陰で、お隣の星ナジェルは、故郷に匹敵するほどの繁栄を始めた。
本星に残ったものたちにとって、そこは単なる植民地だった。
不足した物資を補う、倉庫のようなもの。
豊富な資源を秘めたナジェルは、惑星ガイアに消耗されるだけの存在に思えた。
だが。
命がけで惑星ナジェルを切り拓いた者たちにとって、ガイアではなく、ナジェルこそが、故郷と呼べる星だった。
彼らは、惑星ガイアからの不当な搾取に憤りを覚えた。
なぜ我々が、惑星ガイアの高慢な者たちに、踏みつけにされねばならないのか。
時代を重ねるにつれ、溝はだんだん深くなっていった。
かくして。
惑星ナジェルは、惑星ガイアからの独立を志した。
それは、母なる星との矜持のある惑星ガイアにとって、とても許しがたいことだった。
お前たちは、私達の倉庫であればいい。
何を勝手な事を言っている。
ケンカ腰だった。
独立問題で二つの星が争っている間に、思いもかけないことが起こった。
二軒隣の星――
誰もが意識から外していた地味で目立たない星、惑星ディストニアが、突如として惑星ガイアからの独立を宣言したのだ。
まさに。
晴天の霹靂だった。
あまりの出来事に本星とその隣の惑星は一瞬、都市機能を麻痺させてしまった。
穴馬がダービーを勝ち抜き、馬券が宙に舞った瞬間のように。
緊急に対策委員会がもたれ、話し合いの使節が派遣された。
だが惑星ディストニア政府の独立の意思は固かった。
惑星ナジェルは、独立の先を越されて激怒した。
惑星ガイアは無遠慮な独立宣言に、臆面もなく撤回を求めた。
惑星ディストニアは、せせら笑った。
二つの星が諍いをしている間に、ちゃっかりと実力を蓄えていたのだ。
惑星間弾道弾や、スーパー・ノヴァ砲など、理論では組みあがっていた兵器を、二軒隣の惑星はしたたかに実用化していた。
独立宣言とともに、本星とそのお隣に銃口は向けられた。いがみ合いにかまけて、優秀な科学者達がこぞって本星を旅立ち、破格の待遇で二軒隣の星へ招聘されていた事実にも当事者たちは気付いていなかったのだ。
もし、独立を認めないというのなら惑星が消滅しますよ。惑星ガイアも、惑星ナジェルも。私たちにとってはどうでもいいことですが。
時の惑星ディストニアの独立政府代表は、そう言ってにっこりと笑った。
あらゆる説得がなされた。
故郷を襲撃することは、太古の親殺しにも匹敵する罪だとか。
右頬を打たれたら、左を差し出せだとか。
全ては無視された。
誰もが宇宙間戦争を予感した。
一触即発の事態だった。スーパー・ノヴァ砲は、親指一本で発射できるのですよ、と、使節団に向けてほがらかに説明する独立政府代表の笑顔が、人々の悪夢となるほどに。
だが、あまりにもあっけなく、危機は去った。
最初に宇宙に旅立った数人の勇気あるものたちの子孫が、なんと本星、惑星ガイアに突然現れたのだ。
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