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「おはよう。市川」
教室に入ってすぐ、声をかけてくれるのはもちろん綾瀬。
朝から眩しいほど爽やかで、綾瀬ってわりと俺のなりたい理想系なんだよなと思う。
「おー、おはよ」
そう挨拶を返す。
どうでも良いけど朝の挨拶って気持ち良いよな。
「今日、数学あったっけ?」
そう綾瀬が聞いてくる。
つい最近知ったことなんだけど、綾瀬は数学がめちゃくちゃ苦手らしい。
それを聞いたとき、完璧って無いんだなとしみじみ思った。
「あったと思うけど」
「だよね。最初の方で躓いてるから分からなすぎて眠くなってくる」
確かに、一回躓くとその後の授業分からないし理解に時間かかるよな。
ちょっと親近感。
「憂鬱だ」
さっきの眩しさは影を潜めて、しおれている綾瀬が目に入る。
しょんぼりしすぎてなんか可哀想になってくるな。
数学か、もしかしたらこれはもっと仲良くなるチャンスかも知れないな。
――よし。
「綾瀬、俺が勉強教えようか?」
俺の突然の提案に呆然としている綾瀬。
数学は得意な方だしある程度は俺でも教えられるかな、と思ったんだけど、
……選択ミスった?
「教えてなんて言ってないのに、いきなり何言ってんだこいつ」みたいな?
なんか急に恥ずかしくなってきた。
柄じゃないこと言うんじゃなかったと後悔する。
俺なんかに教えてもらう必要なんてないよな、と自己嫌悪に陥っているとーー
「ほんとに!?市川が良いならお願いしたい!」
皆さん、綾瀬は紛うことなき良い子です。
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