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日が落ち始めた夕暮れ時の図書室。
俺と綾瀬は、1週間後にある中間テストに向けて勉強をしていた。
一緒に勉強と言うよりは、家庭教師的なものに近いのだが。
なぜこうなったかを説明するには、少し遡らなくてはならない。
一週間に2回、数学を教えるという関係が良好に継続していたある日、綾瀬から懇請があったのだ。
中間テストまで勉強を見てくれ、と。
あまりに必死なもんだから気圧され、引き受けてしまったのだが。
なんであんなに必死だったんだ?
ちらりと綾瀬を見れば、丁度向こうもこちらを見ていたようで視線が合う。
「市川、ここ教えて」
「えっ、あぁここは━━」
まぁ、これで綾瀬の力になれているならなんでもいいか。
自分の勉強も進めなくちゃいけないしな。
そう自己完結させて机に向かったところで、再び綾瀬に「ねぇ」と声を掛けられる。
視線を向ければ真剣な顔の綾瀬がいる。
「俺の勉強見てもらうのって、市川の負担になってない?」
憂色を浮かべてこちらを覗き込んでくる。
「今更、どうしたんだ?」
綾瀬が頭を下げて、視線を落とす。
「市川も、勉強しないといけないのに」
「優しさに甘え過ぎてるんじゃないか、無理させてないかって、心配になって……」
顔を上げた綾瀬の瞳が俺を捉えて揺れる。
慰めようと手を伸ばし、ほぼ無意識に、俺より少しだけ低い位置にある頭を撫でていた。
「心配しなくていい」
負担なんかじゃない、とそう言うと目をぱちぱちさせている綾瀬が目に入る。
「人に教えることで知識が定着するって言うだろ。教えることも勉強のうち、みたいな?」
そう答えると、不安そうな顔が、はっとしたような顔に変わる。
「そっか、ありがとう」
「うん」
「俺、市川の厚意を無駄にしないよう頑張るね」
両手をグーにした綾瀬がそう言う。
とりあえず、元気が出たみたいで良かった。
「おー、頑張れ頑張れ」
そう返事をして、もう一度机に向かい勉強を始める。
中間テストまで、そこから毎日のように放課後に二人で勉強をした。
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