世界を救うのは僕だ

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世界を救うのは僕だ

 はじめて降り立ったのは氷の大地だった。僕の横にはペンギンがいて、僕の手を引っ張って目の前にある氷の階段を登らせた。その頂上には白いひげをたくわえたおじいさんが、よく来たと僕を歓迎してくれた。 「この世界を余すことなく旅をするといい。世界は君を望んでいる」  そこで夢は覚めた。隣のお母さんのベッドはもぬけの殻できっと朝ごはんを作っているのだろう。夕べ、眠れなくて夜更ししていたら、お母さんにおやすみすればきっと素敵な夢が見られるよ? と言われて渋々目を閉じたのだけど、氷の大地から冒険が始まるならきっと素敵だ。  その夢はその日で終わりだと思っていたのに次の日の夢は続きだった。 「よく戻ってきてくれた。君のために用意した船が無駄にならずに済んだ」 「海に出るの? 僕は子供だよ?」  ワクワクした気持ちもあったけど、怖いのもあって、子供であることを言い訳にした。 「安心したまえ。船は魔法の船だ。君を好きなところに運んでくれる。心配ならそのペンギンを連れていけばいい」  至れりつくせりだ。もし魔王を倒せとか言われたら嫌だけど、そんな話はなかったからきっと大丈夫。僕はペンギンと一緒に海に出た。  氷の大地の海は流氷が浮かんでいたけど、船はそれをうまく避けて勝手に動く。ペンギンを見送る白くまやアザラシに手を振っている。 「寂しいの?」  僕はついペンギンに声をかけた。ペンギンはふるふると首を振る。 「楽しみなの?」  ペンギンは首を縦に振った。 「僕もなんだ」  そう言ったところで目が覚めた。  やっぱり隣のお母さんのベッドはもぬけの殻で今日も朝ごはんを作っているのだろう。  それからも僕は毎晩違う世界の夢を見るものだから、お母さんとお父さんにおやすみをちゃんと言うようになった。  おやすみを言い出してから、あの世界の夢を見るようになったから、それは大事なことなんだ。  それが幼稚園の頃。その日から僕の二重生活が始まったんだ。それは誰にも内緒。そんな話をしたらきっと馬鹿にされる。十歳となった僕はどこにでもいる運動も勉強もちょっと苦手な十歳だけど、夢の中では世界を股にかける冒険者。  砂漠のピラミッドや南国の遺跡を巡り色々な宝物を手に入れる。僕の横にはずっとペンギンがいるけど仲間も増えた。
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