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「ちょっと船をつつかれただけなんだけどね。大袈裟なのよ、この子はまったく」
縁側に寝かした大冴の、濡れた睫毛がぴくりと動いた。
おばさんとお姉さんは、居間でテレビを見ている。
「海の男が、そんなんでどうすんだか。まあ〜本当に、都会っ子は精神が軟弱で仕方ないわね」
「ねえ〜」
天気予報を待ちながら、枝豆をつまんで談笑するふたりは、シャチを前にしても笑っているのだろうか。なんて。
「おばさん、麦茶ありがとう」
「もういいの?」
「うん、ありがとうございました」
「叶波ちゃん、スイカ切ってあげようか」
「大丈夫です。私、もう行かなきゃ」
私は大冴のお腹にタオルケットをかけ直してから、用事もないのに急いでサンダルを履いた。
大冴の家は嫌いじゃないけど、風鈴たちの奏でる調子外れな音楽が、今は酷く耳障りだった。
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