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「巨大シャチ、来ないじゃん」
芹菜は双眼鏡を首にかけて、桟橋に腰を下ろした。
後ろに手をついて、靴を脱いだ無防備な足をプラプラさせている。
私は、芹菜のサンダルの日焼け跡が、海面を飛ぶカモメみたいだなあなんて思いながら、不規則に揺らぐ水面を見ていた。
「巨大シャチ、信じてないんじゃなかった?」
「まあね。でも、絶対ないとは言えないでしょ?」
「そうだねぇ。今日は貝殻、もういいの?」
「うん。写真立て作り、もう五回目だからね。すぐ作れちゃったよ」
「そっか」
そっか。
芹菜がフォトコンテストに応募し始めてから五年も……ううん、まだ五年か。
受賞したら飾るんだ、とキラキラな目で貝殻を集めていた芹菜が懐かしい。そう感じたことに寂しさを覚え、私は芹菜の手に触れた。
――熱い。
太陽に熱せられた桟橋に負けないくらい熱い。
「叶波、あついよ」
「あっちぃね」
私の砕けた口調に、芹菜は目を大きく開いて私を見た。
「すごい顔」
ふたり同時に吹き出して、肩を揺らして笑う。
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