・ ・ ・ ― ―

1/3
前へ
/40ページ
次へ

・ ・ ・ ― ―

「巨大シャチ、来ないじゃん」  芹菜は双眼鏡を首にかけて、桟橋に腰を下ろした。  後ろに手をついて、靴を脱いだ無防備な足をプラプラさせている。  私は、芹菜のサンダルの日焼け跡が、海面を飛ぶカモメみたいだなあなんて思いながら、不規則に揺らぐ水面を見ていた。 「巨大シャチ、信じてないんじゃなかった?」 「まあね。でも、絶対ないとは言えないでしょ?」 「そうだねぇ。今日は貝殻、もういいの?」 「うん。写真立て作り、もう五回目だからね。すぐ作れちゃったよ」 「そっか」  そっか。  芹菜がフォトコンテストに応募し始めてから五年も……ううん、まだ五年か。  受賞したら飾るんだ、とキラキラな目で貝殻を集めていた芹菜が懐かしい。そう感じたことに寂しさを覚え、私は芹菜の手に触れた。  ――熱い。  太陽に熱せられた桟橋に負けないくらい熱い。 「叶波、あついよ」 「あっちぃね」  私の砕けた口調に、芹菜は目を大きく開いて私を見た。 「すごい顔」  ふたり同時に吹き出して、肩を揺らして笑う。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加