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人の部屋…というかほんの昨日(8年前)まで二人で同じ部屋だったんだけれど。部屋なら腐るほどあるので、隣の空き部屋を自分の部屋にしました。
年頃ゆえ仕方のない話ですが、追い出された感じで寂しい限りです。
ともあれ、みな君はちゃんと部屋の片付けをしたようです。こんな状況になって、ぼくとお父さんがそこまで動じていないのに不思議がっていましたが。
まあ…申し上げたように宇賀神家には山ほどの逸話があって、ぼくとお父さんもっと色んなことを聞いていたので、心の準備はできていたと申しましょうか。
そんな宇賀神の責任と役目を思い出したのは、ぼくが「戻って」何日か経ったある日です。みつぐ叔父さんと琴音叔母さんが家にやって来ました。
宇賀神家は一度戦火によって財産とともに焼き払われましたが、時の当主あまねによって驚異的な回復をとげました。その時に設立された会社の一部を今はみつぐ叔父さんが引き継いでいます。
ぼくは叔父や叔母と再会の言葉を交わしたあと、一人の男性を紹介されました。懇意にしている○○会社の重役だか社長だか肩書きは忘れましたが、挨拶もそこそこに男性から質問をされました。
「いやあこの度は大変でしたね。しかし流石宇賀神のご長男、利発な顔をしていらっしゃる。時に、どうですか。世の中の景気と言うのは。例えば投資をするとして今は買い時だと思いますか?」
小学生のぼくに何を聞くのだろう…と思いましたが、するすると答えが頭の中に浮かび、気がつくと声に出していました。
「コロナ禍で受けた経済の打撃は、今やすっかり回復したと言えましょうが、今は買い時でないです。次の立秋までお待ちなさい。そこからが買いです」
男性はすっかり満足して、父と叔父に封筒を渡して帰っていきました。あれの中身が小切手で、ゼロの数がいくつあるかも何となく頭の中の「声」として聞こえてきました。
宇賀神の使命。そう、それは、頭の中に聞こえる声によって、探し物や未来の予知をすることなのです。あまね以降、祖父や父には力が発現しなかったため宇賀神家は斜陽の一途を辿っていましたが、ぼくの失踪の一件を聞きつけた輩が探りを入れて来たということでしょう。これは、ぼくの力を顕現するための試練であったと。
ところで、ぼく自身の口から出た言葉だけれど…「コロナ」って何だろう。
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