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1 遊戯
ショッピングモールのイベントホールに閉じこめられた人たちは既に数えるほどしか残っていない。犠牲者はゆうに3桁をこえるだろう。生存者たちが男女に分かれて立つよう命じられ,片方の列の人間が1人ずつフロアに倒れていく。機関銃を突きつけられた店員が命乞いをする。
「おめぇを助けたら,何かいいことでも,あんのかよぉ?」
「お金をさしあげます。全財産を――」そう言い終わらないうちに撃たれた。
「君の弁護を担当しよう!」射殺される順番を二つ残して紳士が口走る。「裁判所のお偉方とも懇意にしている! 有利な判決が出るよう取り計らうから!」
「何で,おめぇに弁護されなきゃなんねぇの」ずどんと撃ちこむ。「裁判なんて受ける訳ねぇし。誰がとっ捕まるかよ」
「あ,あの着物の娘……」長髪のロッカーが女の列を指さす。「彼女なんです」
和装の女が男の不情を責めたてた。
犯人が機関銃を投げ捨てて前のめりになった。「献上するってかぁ?」ズボンのポケットをまさぐりながら,へらへらと表情を崩す。つられたように愛想笑いを浮かべたロッカーの眉間が貫かれ,飛沫をあげた。
犯人が拳銃をおろし,和装美人に近づく。「ここにいる人間はとっくにおいらの玩具なんだよ」振りむきざまに拳銃を連射すれば,ドミノ倒しを見るように男の列が平たく壊滅した。
「大丈夫? 恐くなかった?」犯人がアップの髪を撫でると,和装美人は媚態を示した。ふっと鼻先で嘲るみたいな音がした瞬間,白い着物が深紅に染まっていた。
「ゲロ出るわ――てめぇみたいな女」死体に一瞥を投げてから,立ち並ぶ女たちのにおいを嗅いでいく。
着ぐるみの腕に紐が絡まったまま風船の群れは漂っていた。そのなかに潜む僕はようやく逃げ出す機会を得た。
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