2 告げ口

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2 告げ口

 犯人の気が削がれているうちに血塗れのフロアを這っていく。 「また逃げるの! 逃げられると思うの!」また,あの声が背中に突き刺さる。 「ごめん,ホントにごめん」心のなかで念じながら数メートル先に迫るシャッターへと匍匐前進していく。 「いや! 触らないで!」  後方を見れば,革製の赤いロングコートを纏った少女が犯人に抵抗している。ほかの女たちはほっとした表情で俯いているばかりだ。 「あたしはヤクザの娘よ!――何かすれば,ただじゃ済まないから!」厚底ブーツを踏み鳴らし,脅しをかける。 「ははっ……威勢がいいね。随分着こんでんじゃん,暑くない?」 「うるっさい!」肩で切り揃えた髪を振り乱し,低い位置から睨みつける。その目が犯人を通りこし僕の目とかちあった。  告げ口される……  だが少女はそのまま視線を逸らせた。 「あれ――見てよ,あれ!」店員バッジをつけた女がこちらを指さしている。「逃げようとしてる!」狂乱したみたいに叫ぶ。 「この野郎!」犯人が無茶苦茶に撃ってくる。  無数の弾を食らった。繰り返し絶叫し,ついには喉が張り裂け,声も出なくなった。苦痛と恐怖に追撃されつつ跳んで,はねてシャッターに辿りつく。赤黒く汚れた指をモルタルとシャッターとの隙間にねじこみ,渾身の力をこめる――  出ない悲鳴を発した――喉がヒューヒュー鳴った。犯人に踏み躙られて,もげた指が,何匹もの芋虫みたいに蠢いていた…… 「おめぇ,すごくない? 何で死なねぇの?」人の顔面をシューズの爪先で傾けてから,素っ頓狂な声を漏らした。  犯人に上半身を抱き起こされる。「何で――何で,こんなとこに――ああ,どうして,こんなことに――迎えにきてくれたの?」
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