序、領主館へ馳せ参じること

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 ここは領主が平時(へいじ)に過ごす館で、彼の正面には、二人の人間が座している。敏充の召集に応じてやってきた、杜椋村の者であった。  年嵩(としかさ)のほうが乙名(おとな)、いわゆる長老で、名を葉山(はやま)清右衛門(せいえもん)という。小柄な好好爺だが、皺の刻まれた顔からは長の貫禄が見てとれた。  他方の青年、玖村(くむら)月晴(つきはる)は、十八歳にして至極落ち着きをもった人物だった。日焼けしにくい(たち)らしく、日々農耕している割には色が白い。高価な着物を(まと)えば、どこかの若様に見えそうな雰囲気すらあった。  さて、そんな二人は、天狗伝説と切り出されて顔を見合わせた。  しかし、特段動揺した様子もなく、苦笑を浮かべるのみだ。 「今回お声かけいただいたのは、そのためで」  控えめに尋ねたのは、清右衛門である。
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