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「まあ、念のため知らせておかねばと思ってな。尾ひれのついた噂は、面倒事も引き起こす。それで? 村に不穏なことはないか?」
領主の問いに、清右衛門は一応首を振った。
「……少なくとも、表立っての異変はございません。時折、近隣の土地の人間で、噂について聞きたがる者もおりますが。そういったことは、昔からあったので。それに皆、そこまでしつこく食い下がってはきませんから、危ぶむほどではないかと」
「なるほど。月晴はどうだ?」
領主は青年に視線を移し、旧知の者に対するように言う。青年も場慣れしているのか、堂々と応じた。
「私も特には。家族も同じかと思います。何か気づけば伝えてくれるはずですので」
「そうか、分かった。お主の家でも何もないというのなら、ひとまず成り行きを見守ろう」
領主は再びゆったりと、脇息に身を預けた。
領主が月晴の家に言及したのは、青年の家こそが、天狗伝説の渦中にあるからだ。
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