5人が本棚に入れています
本棚に追加
「ニッシーの魂を奪えばちょうど1万って事。わかる?」
淡々と話されたその事実に、返す言葉が見つからなかった。
ただ、思い当たる悪魔が脳裏に浮かんだ。
死神殺し。今、死神界を騒がせている悪魔で、その姿を見た者は生きて帰れないとまで言われている。
奇跡的に逃げ切った1体の死神が、死神界にその悪魔の情報を広めたのだが、それが悪魔の策略だったと知るのは、その後1年の間に死神の数が激減したと気づいた時だった。適当な死神をわざと逃がし、広告塔の役割をさせたのだと推測されている。
タクマの目的を知ると同時に、彼の正体も自ずと理解できた。
同時に気付いたことがある。
「つまり、これまで死神を殺した数が9999って事だろ? ゾロ目はキリ番に入るのか?」
素朴な疑問を投げかけたつもりだったが、タクマはキョトンとしている。その様子を眺めていると、彼はおもむろに膝から落ち、這うように手をついた。
「あああああ僕としたことが! 前の人におめでとう言ってない!」
いつものタクマだ。
「最後が半年前だから……え、半年? 半年もゾロ目に気づかず僕はのうのうと過ごして……あっ、ああ、あああああああ!」
「ちょっと落ち着けよ」
姿は違えども、通常運転に戻ったタクマに何故だかホッとしている。
これから彼に殺されると言うのに。
タクマは情けなく悶えるのを止め、何事も無かったかのようにゆっくり立ち上がった。
「ニッシー、最後に言い残したい事は……あ、やっぱ話さないで」
「タクマ、小テスト対策してないだろ?」
タクマはピクリと目を見開いた。
「お前に勉強教えるのクソほど手間かかるんだよ。前々から準備しとけ」
「ニッシー」
「一方的にあちこち連れ回すの、他の人にはやらない方が良いぞ。そう言えば、学食全メニュー制覇するって自分で言ったの忘れてるだろ」
タクマは口をつぐみ、こちらを睨んでいる。
「……俺といるの楽しくなかった?」
最後、声に感情が乗らないよう気を付けながら尋ねた。
人間と違い、死神には死への恐怖心が無い。ただ、仕事を全うする駒として数が減っては困るという理由から、己の存在を守ろうとする意思はある。
だから今抱えている恐怖心は "死" に対してじゃない。目の前の友人が答えを出すまでの、ほんのわずかな時間に芽生える感情だ。
しばらくして、押し黙っていたタクマの口が動いた。
突き放した目で「サヨナラ」と告げるタクマの姿が、死に際に見た最後の光景となった。
最初のコメントを投稿しよう!