彼の幼馴染

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旅館業は、24時間気が抜けない仕事。 今の若い女の子なら務まらない若女将という立場をマーガレットは持ち前の明るさと努力で女将に認められるまでになっていた。 「おもてなし」という事を勉強して日本の文化も勉強してブラウンの髪の青い目の若女将は話題になり旅館も雑誌などで取り上げられた。 半年予約が取れない宿と言われるまでになったのは間違いなくマーガレットの努力と人柄だった。 「今日中に帰ってこないならお義母さんはもう帰ってくるなって言いなさいって。私はもう少ししたら帰るけどどうする?」 「帰って来なくていい」そう筆で書かれた綺麗な文字の和紙をマーガレットは鬼塚に突き付ける。 「俺は息子だぞ・・。」 「あのね・・息子でも男でもなんでもいいけど。もう少し仕事にプライドと責任感を持ちなさいよ。彼女がここに来るのにおそらく彼女は自分の仕事を割り振りしてお客さんに迷惑がかからないようにしてきたと思う。 貴方はどう?男としてのプライドとか言うなら仕事くらい責任持ちなさいよ。」 留美が一番嫌うのは、仕事への無責任な行動だ。 「前に留美が大事なプレゼンの時に彼女が高熱を出したんだけど俺は、誰かに変わってもらえと言ったけど彼女は、解熱剤飲んでプレゼン会場に行って自分の代わりにプレゼン出来るように育てていた部下に指示しながら仕事した事があったんだ。男でも女でも仕事に関する責任は同じじゃないのか?お前は甘えられる環境すぎたんだよ。」 俺がいつになくキツイ口調で鬼塚に言うと奴は分が悪いと思ったのか「帰る」と言って立ち上がって二人で帰って行った。 その帰り際にマーガレットが俊介に・・。 「いいパートナーね。今度遊びに来て。」 と笑顔で自分の旦那を連れ帰った。 嵐のような二人の訪問だったが俺にしたら再認識できるいい機会だった。 価値観が違っても歩み寄りお互いに認めて尊重し合えば二人の新しい価値観が産まれる。 俺達二人が今同じ価値観を共有できているのはそういう事だと思った日だった。 「ごめんな。留美。」 「面白かったから・・おかしな人ね鬼塚さん。」 俺は彼女のこういう所が好きなんだ。 あれほど言いたい事言って言われたのに「面白い人」「おかしな人」で相手の価値観には踏み込まない。 俺と彼女が二人で歩めるのはお互いの歩み寄りが自然に出来ているからだと思う一日だった。 鬼塚は、自宅に帰ってから説教されるよりも若旦那としての仕事を山のように押し付けられて泣きそうになりながら仕事をしたらしい。 あの夫婦は、間違いなくマーガレットの手の平で踊らされているのが鬼塚だ。 それもまたいいと俺は思う。                          Fin
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