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隠蔽工作
そんなことを思っていると——
パーカッション(=打楽器)パートリーダーが発言した。
「確かに1年の相田さんのオーボエは、私もすごくいいと思うけど、本当にそれでいいの? 私達3年生なんだよ? このコンクールが最後のチャンスなんだよ? 私も喧嘩は嫌だけど、妥協案みたいな感じで決めるんじゃなくって、3年生みんなが納得出来るような曲を考えない?」
さすが打楽器担当、良いことを言う!
今だ! 便乗するなら今しかない!
私は冷静を装い発言する。
「そうね。まったくその通りだと思うわ。私達は各パートの代表であるだけでなく、ここまで一緒に頑張ってきた3年生の仲間たちみんなの代表でもあるのよ。その点を踏まえて、もう一度初めから考え直しましょう」
よし、自然だ! 誰がどう聞いても、部長的模範解答だわ!
「ああ、そうだな。部長の言う通りだ。勢いだけで涼に賛同して申し訳ない」
と、誉が謝罪した。
よし、人情派の天然が折れたぞ!
ふふっ、誉が『仲間』という言葉に弱いことを、私は熟知しているのだ。
「まあ、誉がそう言うのなら、ボクも発言を取り消すことにしよう」
よし、涼も折れた。
頑固者として知られる涼も、なぜか誉の意見だけは尊重するのだ。
ふふっ、天然のドミノ倒し成功ね。
その後、いくつかの候補曲が出たのだが、今回の会議の目的はみんなの意見を先生に伝えるだけなので、複数の候補曲全てを先生に伝えることにして会議はお開きとなった。
部長である私は、会議終了後、先生に報告するため職員室に向かう。
実は、『オーバッカーノの祝宴』も一応候補に入れることになったのだが、私はもちろんこの曲を外した上で、候補曲を先生に伝えたのだった。
よし! 我ながら完璧な隠蔽工作だったわ。
今日ほど部長になって良かったと思った日はないわ!
これで私は明日からも平穏な日々を送れそうね。
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