街道荒らしの賊

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「にーくにっくーおっにっくぅー♪ はーい宿六(やどろく)ぅ! おーにくっだっよぉー!」  肉感的な肢体を持つ女は、目鼻立ちも美しく整っていながらしかし眉間を中心に顔面いっぱいの大きな十字傷。剃っているのか眉はない。  彼女が馬車の荷台から鶏もも肉を投げると、宿六(やどろく)と呼ばれた男、筋骨隆々の肉体に下履きと露出の多い上着を羽織った彼は目隠しのままそれを受け取った。野性味溢れる歯で筋も骨も物ともせずに食いちぎる。 「肉は干してあっても肉だよなあ。これって鶏肉かあ? なあ!」  見えているのかいないのか、彼の両眼を完全に覆っている包帯のような布にはなんらかの魔術文様が縫い込まれている。 「まあなにかの鳥でしょうね。知りませんけど」  隣に座っていた緑掛かった黒髪に眼鏡の優男が投げられた二本目の鶏もも肉を左手で受け取って口にした。  ゆるりと纏った長衣は魔術士のようであり、両腕を隠すように羽織られた外套の右側は存在しないのか不自然に垂れ下がっている。 「もう! 薄鈍(うすのろ)宿六(やどろく)もつまんない詮索はやめてちょうだい。それは『美味しいお肉』なの! 気に入らないならそこのご主人様に言ってくれないかしら?」  少女のような癇癪をおこす彼女の視線の先、商隊の主である商人は傷付いた哀れな御者を抱えて今にも泣きそうな顔で三人を見ていた。  彼女の第一射を受けて右目と右手に深手を受けた御者は、馬車から転がり落ちながらも一命を取り留めていた。  今は荷台に乗っていた商人の男が看病している。といっても治療も手当もできない現状では意識のない御者に寄り添っているくらいしかないのだが。 「よう、こいつは旨い肉だが鶏肉なのか? 悪いが俺様ちょいと教養がなくってなあ! つーかそもそも見えねえんだけどよお!」  筋骨隆々の目隠し男、宿六(やどろく)はなにをもってどう察しているのか常人には計り知れないがとにかく視覚に頼っている様子はなく、顔も向けずに話しかける。 「というか味が鶏肉でしょうに」  細身の男、薄鈍(うすのろ)はめんどうくさそうに呟く。 「知らねえっつってんだろしつけえぞ」  雑に切られた短髪赤毛が薄鈍(うすのろ)の眼鏡に触りそうなほどの鼻先で凄む。 「目玉もないクセにメンチを切るとは。食事中に笑わせないで貰えますか」  薄鈍(うすのろ)はその立ち振る舞いに似合わぬ下卑た笑みで返し、それを制したのは十字傷の彼女だ。 「やめてちょうだいって言ったでしょうがこぉの盆暗(ぼんくら)ども! その耳はなんのためについてんの!? きのこなの!? あとでお肉と一緒に煮たらいい出汁が出るのかしら美味しそうね!」 「傷物(きずもの)に指図される覚えもないんですけどね」 「まあ肉がなんだろうと美味けりゃ俺様はかまわねえさ」 「今さら? もとはと言えばあんたが気にしたんじゃん」  彼女は薄鈍(うすのろ)の言い草を気にした様子もなく宿六(やどろく)の言葉に半笑いを浮かべてからくるりと商人のほうを向く。 「それでご主人様ぁ? どうなの実際のとこ」  十字傷を持つ女は自分たちが襲撃者であるなど微塵も気にせぬ風情でぐいぐいと笑顔を寄せる。  商人は震えを押し殺した声で「鶏肉の燻製、です」と答えた。 「そうなんだ? いい商品ね」  彼女は他人事のようにそれだけ言って他のふたりと輪になるように腰を下ろした。 「でもちょっと固いわね。そこの野蛮人どもにはちょうどいいのかもしれないけど」 「文句があるなら草でも食ってろ。それよりそいつらどうすんだ。とりあえず殺しとくか?」  宿六(やどろく)の言葉に残ったふたりが視線を向けた。
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