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街道荒らしの賊
御者のいない馬車。繋がれたまま嘶き暴れる馬。
護衛の冒険者たちはある者は倒れ伏し、またある者は一目散に逃げだした。
その場に残されたのは商人と傷付いた御者のふたり。
そして、我が物顔で振る舞う三人のならず者。
大陸の西の最果てベッケンハイムの城下町から東へ向かう大街道。城下町からすでに何日も離れているのだから商隊一行も当然警戒していた。
「すーみーまーせぇーん!」
だからなにもない草原や僅かな低木しかない街道のど真ん中で、薄汚れた派手な赤色のドレスを着た女が立ち塞がって手を振っているのを目にしたときも、護衛の冒険者たちは緊張を解くことなく周囲に視線を巡らせた。
まだ陽も高く、ひとりふたりならまだしも大勢の人間が隠れるような場所はない。こちらは一台の馬車に七人の冒険者、数で圧倒される心配がないなら危険はないだろうというのが護衛たちの判断だった。
しかしその行動、その判断は道を塞いだ女の脅威を一切考慮していない。だから視線を切った瞬間、彼女から放たれた礫には誰も反応できなかった。
くすんだ色の豊かな金髪になにげなく差し込まれた両手がそこから引き抜かれたとき指に挟まれていたのは鋭く角の立った金属の塊だった。
彼女は表情も纏う空気も微塵ほどにも変えることなく、一息のうちに御者の右目と右手の甲、馬車の左側から周辺を警戒していた冒険者三人のうちふたりの右手の親指へと、二振り四的、精緻極まる投擲をしてみせたのだ。
彼らの悲鳴が響き右手の三人が馬車の向こうに気を取られた瞬間、同じく右手の茂みに隠れていた男が一足に飛び掛かり回し蹴り一閃、右側先頭にいたひとりの首を圧し折って息の根を止める。
驚愕の声をあげる暇すらもない。その馬を足場に跳ねた男はすぐ後ろのひとりへ飛び膝を決め、さらにそこを足場として三人目へ飛び掛かって頭を掴むと体重を乗せて地面へ叩き落す。頸椎の砕ける音が響いた。
一方御者の制御を離れた馬は暴走を始めようとするが、しかしなにかに激突するように仰け反って嘶く。
魔術による障壁。
強化魔術のなかでも媒体を持たず空間に効果をもたらす防御、障壁の魔術は、非常に高度で誰にでもできる芸当ではない。
状況を把握すればするほどに手に負えないという実感が増していくなか、所詮雇われでしかない冒険者たちが逃げ出すのは、悲しいかな必然という他なかった。
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