§ 10***奪われた時間。

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「ああ、ブラフマン伯爵。ご子息様方々もご無事で――」  エミリアとジョーンは転がるようにやっとのことで駆けつけたかと思えば気力を消耗したのか、地面に倒れ込んだ。 「彼女のおかげです。ミス・トスカ、貴女は息子にとって――いいえ、ブラフマン家にとって命の恩人よ」  レニアはメレディスの背中を撫で、そっと抱きしめると謝罪と感謝の言葉を囁いた。 「彼女が勇敢にも愛馬と一緒にラファエルを救ってくれたのよ」 「当然よ、だから言ったじゃない。メレディスはとても素敵な女性なの。メレディス、貴女はブラフマン家の英雄よ。もう何もできないなんて言わせないんだから!」  キャロラインは涙を浮かべながら胸を張って言った。  その場にいる誰しもがメレディスとラファエルの仲を認めている。  ――ああ、なんということだろう。これでは何のためにこの馬丁に近づき、今日というこの日を迎えた意味が成さない。よりにもよって一番の邪魔者がこの状況を作っただなんて。  厄介なメレディス・トスカ。彼女は何も出来ないただののろまな人形だと思っていたのに。ここへやって来て自分よりも目立とうとしているどころか、今や英雄気取りだ。対する自分はどうだろう。愛している男性の隣にいることもできず、こうして突き放されようとしている。  この、目障りなメレディス・トスカによって!  僅か三日という短い期間にも関わらず、乗馬に参加するラファエルの馬を探り当て、姉のジョーンにラファエルの馬が当日メレディスが乗る馬だと唆し、馬酔木を馬に仕込ませたのかが分からない。
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