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三枝はしばらく思案したあと尾藤に向き直った。
「うむ、まずは矢尾板さんの提案に乗っかってみよう。君たち警護班は鬼面に変化を察知されることのないよう自然に行動したまえ。そして今晩、もう一度様子を見てみよう。しかし、決して油断をしてはならない。鬼面――あるいは仮面を脱いだホシが今晩また屋敷の周囲をうろつくかもしれない。君たちは細心の注意を払いつつ、屋敷を警護してくれたまえ。そして今晩、なにも起こらなかったら、一旦、引き上げよう。もちろん、本当に引き上げるのではない。尾藤君は屋敷に潜伏し、引き続き警護を続けるのだ。そして代わりの警護の者を複数人、屋敷に潜入させよう」
「わかりました」
尾藤は三枝の言葉を受け止め、うなずいた。
「僕も引き続き屋敷に留まります。鬼面にとってはその方が都合がいいはずですから」
矢尾板の言葉に三枝が反応した。
「都合がいい?」
「そうです。彼の目的のひとつに恐らく矢尾板麗央の殺害があると僕はみています」
「なんだって!」
「だってそうでしょう。鬼面は宍倉家に恨みをもつ者なのですよ。霞さんが亡くなった現在、この屋敷に残された左近さんの肉親は黎人君と菜穂さん、そしてこの僕、矢尾板麗央ということになりますからね。鬼面が宍倉本家の壊滅を目指しているとするならば、必ずや彼はこの僕の殺害も検討しているはずです」
「ううむ」
三枝は唸り、尾藤は瞑目した。
「ご心配なく。矢尾板麗央はそう簡単にはやられませんよ。僕には鬼面に打ち勝つ知力がある。寝首をかかれるような無様なことにはなりませんよ」
矢尾板は意味ありげに微笑んだ。三枝と尾藤も軽く微笑んだ。
「矢尾板さん、なんども云うが……」
「無茶はするな――ですよね」
破顔する矢尾板の白い歯がキラリと輝いた。ふたりの刑事はうなずくと矢尾板に一礼し、その場を離れた。
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