鬼面襲来 3

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 澤田が叫んだその瞬間、すでに鬼面は勝手口を開錠し、その扉に手を掛けていた。 「澤田さん!」  矢尾板は澤田とともに鬼面を追尾すべく駆けた。さらに3人の私服警官たちも勝手口に殺到した。  まず、最初に勝手口から外に飛び出したのは澤田だった。 「いたぞ!」  澤田が指さすその先に鬼面の悪魔がいた。その距離はすでに20メードルほどに広がっていた。澤田は薄汚い野球帽を地面に叩きつけると「おのれ!」と叫んだ。彼は全力疾走で山へと続く一本道を駆けた。 「山か!」  矢尾板が叫んだ。山に逃げられたら最悪の場合、鬼面を見失いかねない。深夜の清妙山にはほとんど街灯というものがないのだ。  矢尾板は走りながら頭の中で反芻していた。たとえ、この足が朽ち果てようとも地獄の底まで鬼面を追いかけてやる。しかし、やがて矢尾板の足に激痛が走った。 「ああっ!」  矢尾板は飛び上がりつつも失速していった。 「ああ、だめだ」  矢尾板は道路上に転がっていたガラス瓶の破片を踏んでしまったようだ。 「澤田さん、あとは頼みましたよ!」  矢尾板の叫びが澤田に届いたかは定かではない。停止した矢尾板はその場で突っ伏した。 「くそう!」  矢尾板は見境もなく喚き散らした。 「なにが僕には鬼面に負けない知力があるだ! とんだ馬鹿野郎だぜ! くそっ!」  矢尾板の悔恨の叫びが空虚な町に響き渡った。鬼面はもちろん、追尾する澤田と警官たちの姿はすでに遠くに消えていた。稀代の名探偵は気が済むまで喚き、叫び、天に吼えた。こうして彼は鬼面によって痛烈な挫折を味わうことになった。
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