灰色の町 1

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 それから哲学者NULLは私をネットのプライベート・ミーティングに誘ってくれた。ミーティングには主催者NULL以外にもごく少数の仲間たちがいた。  私たちは皆、お互いをハンドル・ネームで呼び合った。私の名前は巡礼者Sだった。この付き合いが始まってもう4年近くの年月が経とうとしている。けれども私の気持ちは新鮮なままだ。  ここ一年についていうとNULLは私の欠かさざるべきアドバイザーになっていた。私はときにNULLとふたりだけでネット越しに会話するという好機を得た。私は、ますますNULLに傾倒していった。彼はある意味、私の救世主だった。  私はダ・ヴィンチ・ガーデンで知的好奇心を満たしながらも、またべつの何かを求めていた。私はNULLの影響もあって、自分自身と対峙できる時間と落ち着いた場所を探し求めるようになった。  そんなとき、ふと旅に出ようと思った。それはたんなる思いつきでしかなかった。しかし、たんなる思いつきで『不透明な巡礼』という長編小説をものにした私は、この思いつきを大切にしようと思った。
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