灰色の町 2

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灰色の町 2

 神頸町の中心地――といっても小さなスーパーと数件のお店があるだけの一帯だが――を北に進むとこの地にゆかりの華厳院がある。高野山真言宗の華厳院は不動明王を本尊とする古い寺院であるという。  私は宗教関連には通り一遍の知識しかなく、高野山真言宗ときいても、空海という名前しかでてこない。  私は神頸町へと向かう車中で、あらかじめ宿泊先を決めていた。塩野家という歴史ある温泉旅館がそれで、戸外に広い露天風呂があるらしい。塩野家は華厳院へと向かう坂道の中途にあるらしい。  私は深呼吸をしてから、山へとつづく長く緩やかな一本道を北へ向かった。ほんの数分歩いただけで周囲の風景は一変した。古い家屋が途切れると両側を深い木立が覆う。昼間でもどこかしら、薄暗い細い道は、まるで異界への入り口のようだ。  途中、「塩野家まであと500m」という木の立て看板があった。道は車が一台通れるほどの狭い道だったが、行きかう車は皆無だった。恐らく、車輛は塩野家と華厳院へと続くこの一本道ではなく、迂回する舗装道路を進むのだろう。
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