灰色の町 2

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 すると坂の上からひとりの若い男が下りてくるのが見えた。中肉中背の男は私とすれ違う際に軽く会釈してきた。白い歯が光る。私と同じ年頃の青年だ。彼はグレーのニットシャツにジーンズというラフないで立ちだった。  目鼻立ちの整ったじつに爽やかな青年だ。彼は地元の若者だろうか? それとも塩野家からやってきたのだろうか? 華厳院を訪れた観光客ではないように思う。リュックひとつ持たない軽装は、近所を散歩している地元の人間のそれだった。  宍倉家の土塀を過ぎ、さらに3分ほど歩くと目的の塩野家に到着した。かなり年季の入った建物だ。塩野家と書かれた看板が掲げてある門から一歩敷地の中へと入る。旅館の玄関は建物から3メートルほどせり出している。ガラス戸の向こうには赤い絨毯が敷き詰められたエントランスがある。 「いらっしゃいませ」  入り口横にいた若い女性が満面の笑みで私を出迎えてくれた。ベージュの作務衣の着こなしも様になっている。年の頃は30歳手前というところか。 「今日から三泊の予定の冴島です」
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