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「お待ちしておりました冴島様。どうぞこちらへ」
女が私をフロントへと導く。じつに慣れた仕草だ。
「いらっしゃいませ」
フロントにはいくぶん不愛想な中年男性がいた。彼も同じくベージュの作務衣を着ている。それはどうやらこの温泉旅館の制服のようだった。
「今日から三泊の予定の冴島胡蝶です」
「いらっしゃいませ、冴島様、本日はお越しいただき、誠にありがとうございます」
男の声は軽やかだったが、その表情は硬い。どうやらこの男は生まれつき不愛想な顔つきらしい。
私は簡単に記帳を済ませた。
「どうぞこちらへ」
女が私を部屋まで連れて行ってくれるようだ。
「冴島様、わたくし塩野家の百瀬と申します。冴島様のお部屋を担当しております」
百瀬さんは私に深々と頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
百瀬さんは私を二階の奥にある部屋にエスコートしてくれた。部屋の鍵は昔ながらのシリンダー錠だ。
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