灰色の町 2

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 5分ばかり進んだところで、傾斜の上の方から歩いてくる男と出会った。灰色の野球帽を目深に被り、うつむき加減で歩いてくる。髪は肩まで伸び、こめかみから顎にかけて髭を蓄えている。  都会で男が歩いていたならば、ともすればホームレスと間違われそうだ。ヨレヨレのチェック柄の長袖に、これまたシワのよったベージュのパンツを履いている。男は素足に薄汚れたサンダルを履いていた。  男は私を発見すると、露骨に視線を避けた。みるからに挙動不審な男だ。私は動じることなく道を進んだ。 「……こいつか」  すれ違いざま、男が微かにつぶやいた。私は不審な男に無関心を決め込み、そそくさと道を進んだ。年の頃は40代なかばだろうか? 気のせいかも知れないが男とすれ違うとき、男の(からだ)から獣の匂いがした。不潔でいけ好かない男だ。 「……こいつ?」  私は男のつぶやきを反芻(はんすう)した。もちろん男とは初対面だ。当然、男も私のことを知らないはずだ。にもかかわらず、私のことを「こいつ」と形容したことにはなにか意味があるのだろうか? もしや男は私のことを知っているのか? 馬鹿な……あり得ない。 「たんなる男の独り言か……」  私は首をひねりつつも華厳院を目指した。
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