< 男への呪詛 >

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< 男への呪詛 >

「この能無しめ」  男を嘲笑(あざわら)う私の声が闇夜に浸透する。まるで軟体動物のような、それでいて透き通った氷のような白い肌をもつ孤高の(もの)()が私に(ひざまづ)く。 「聞こえないのか、こののろまが……」  睥睨(へいげい)する冷めた私の視線、その先には地獄の淵が口を開いている。 「ぼ、ぼくは……」  辛うじてか細い声が男の口から漏れた。 「言い訳はききたくない……自らの職務を(まっと)うできないのならば、いますぐに私のまえから消え失せろ」 「……でも」 「能無しめ……人を殺すことすらできないのか?」  私は再び愚弄の(やいば)をもって男を恫喝(どうかつ)した。 「言葉ではない。態度だ。おまえのその上っ面だけの言葉なんぞには、なんの意味もない」 「それは……わかっています。……でも」 「くどい。もう一度だけ云う――いますぐ私の前から消え失せろ」 「いや……だけど」  そのまま男はモノ言えぬ偶像と化した。
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