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私はそのまま悠然と境内を散歩して回った。境内はがらんとしていて人の気配はない。決して小さくはない寺院だが、寺で職務に従事している人たちは少数なのに違いない。
境内を一巡した私は静謐な気分に満たされた。生まれてこの方、神仏に強い関心をもったことなど一度としてない。日本に流入してきた仏教が中国経由の北伝仏教、つまりは大乗仏教だということぐらいは解る。しかし日本にある13の宗派の違いとなるとまるでチンプンカンプンだ。
もちろん高野山真言宗がいわゆる密教系宗派であることは知っている。しかし、それ以上の詳細はなにもわからない。
華厳院を一回りした私の脳裏に、フト、亡くなった義父の想い出が蘇生した。私の母、沙知絵は私がまだ4歳のときに最愛の夫を亡くした。途方に暮れた母の前に現れた男が義父の隆夫だった。
正直云うと私は幼少の頃から、この義父を嫌悪していた。脂ぎった皮膚と吐き気を催すような濃い相貌、ギョロギョロと蠢く爬虫類のような目、それらはつねに嫌悪の対象だった。
どうして母がこんな男と再婚したのかはよく分からない。義父は陰湿で非常識な下衆野郎だった。
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