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「いやね、さっき鬼面屋敷の横ですれ違ったじゃないですか? あのとき、同じ年頃の人だし、なんだか都会からやってきた人の匂いがしたから、ちょっと気になりましてね。下まで降りて、それからまた山道を登ってきちゃったんです」
「鬼面屋敷……?」
「ああ、これは失礼。宍倉の屋敷のことですよ。いやね、ここいらの人たちは表立っては云いませんが、みんな陰では宍倉の屋敷のことを鬼面屋敷って呼んでいるんですよ」
矢尾板は手に持ったペットボトルの水を口に含んだ。
「あははははは、まあそんなことはどうでもいいや。胡蝶さん……あ、いや、冴島さん、今回はどのような目的でこの町へ?」
「いや、ほんの思いつきですよ。特別な意味なんてないんです。ただなんとなく、のんびりした田舎に行ってみたいなって思っただけで。……あっ、いや失礼、田舎っていう表現に他意はありません。牧歌的でくつろげる最高のロケーションという意味です」
「あははははは、心配ご無用。僕はこの土地の人間ではありませんよ。ここは僕の父が住んでいる町なんです。でも僕は父とはずっと離れて暮らしていましたし、実際この町で暮らしたことはないんですよ」
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