灰色の町 3

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「そうなんですか……」 「ははははは、まあそんなに深刻そうな顔をする必要はありませんよ。まあ過去のことですが僕の母はこの町の名士と(いわ)くつきでしてね。あははははは、まあいいや。そんなことはさておき冴島さんはどちらから?」  矢尾板はいつも笑顔を絶やさない。朗らかな表情には人の心を和らげる不思議な魅力がある。 「私は東京からきました」 「やっぱり。僕も東京在住です。冴島さんは東京のどちらにお住まいですか?」 「三鷹です」 「いいところですね。僕は中野です。中央線の中野の駅から南に歩いて15分」 「そうですか。私は中野にはよく遊びにでかけますよ」  私はしばらくのあいだ矢尾板と世間話をした。内向的な私とは違って彼はきわめて社交的な性格であることがうかがえた。なにものにも動じない彼の態度は実に羨ましくもある。
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