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鬼面襲来 4
「逃がすか!」
漆黒の闇を駆け抜ける鬼面を追跡する澤田が叫んだ。緩やかな坂道を登る澤田は頭上に輝く月に感謝した。もし今夜が曇り空だったならば、このような追跡劇は叶わなかったに違いない。
空は一点の曇りもなく、明るい月に照らされていた。400メートルほど追跡したところで澤田は後方にいる警官たちが脱落していくのを気配で察した。それほどまでに鬼面の走る速度は速かった。
澤田とて決して若くはない。だが彼はこの町で育った生粋の地元民だ。幼少の頃から数えきれないほど駆け回った清妙山の道に迷うことはない。
鬼面はまっしぐらに虹波廃集落を目指しているようだった。澤田の脳裏にふと不安がこみあげる。もしや廃集落には鬼面の仲間が待ち伏せしているのではあるまいか? 俺はまんまと鬼面の罠にはまったのではあるまいか?
こみあげる不安を払拭しつつ、澤田は全速力で駆けた。やがて虹波廃集落が近づいてきた。鬼面は迷うことなく雑木林を目指して疾走している。
「おのれ、鬼面の野郎!」
澤田は歯を食いしばり、なおも追跡を続けた。澤田の記憶によれば、雑木林の先にはいまだに細い山道が残っている。その山道を進むと朽ち果てた日本家屋の残骸が残る集落跡に到着する。
しかし、ここまで全力疾走を続けた澤田の肉体が徐々に悲鳴をあげ始めた。鬼面との距離が少しずつ開いていく。澤田は爆発しそうになった心臓に手を当てた。
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