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「ええ、その予定です」
「そうですか、塩野家の食事は素晴らしいですよ」
「ああ、そうなのですね」
「夕食後、町に下りてみませんか?」
「町に?」
「はい、駅前に天童っていう居酒屋がありましてね。そこの料理もまた絶品なんです。冴島さん、こっちの方はいかがです?」
矢尾板が片手でグラスを傾ける仕草をした。
「はあ、まあほんの少しならば……」
「そうですか。お会いして早々にお誘いしては失礼かとは思うのですが、夕食後、一緒にでかけませんか?」
なぜだろう? 普段ならば、ここまで馴れ馴れしい人間には嫌悪感を抱くはずなのだが、矢尾板に対してはそれを感じない。とはいえ、私はしばし思案した。
「いや、もしご都合が悪いようでしたら無理強いするつもりはありませんよ」
矢尾板のその言葉が逆に私を刺激した。
「あ、いや。べつに用事があるわけでは……」
「あははははは、そうですか。では7時にロビーに集合いたしましょう。天童はこんな山の中でも魚がとても美味いのです。それにお酒の種類も豊富でね。僕がここに長く留まっていられる最大の要因は天童の美味い食事と酒があるからですよ」
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