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灰色の町 1
それは灰色のキャンパスに薄い墨をたらしたかのような陰鬱な町だった。なぜだろう、この町を吹く風すらもが、微弱な悪の振動を宿している。
都会のターミナル駅から私鉄に乗り北西へと二時間ほど進んだところにある辺鄙な町。陰気な無人駅は寂しさにむせび泣いているかのようだった。
季節は4月、平素ならば生命力と新緑の回帰に心はずむ季節だ。だが私の心の中にはヌメヌメとした嫌らしいわだかまりがあった。ねっとりとしたやるせない心の腐敗物だ。それが私の肉体の神経のほとんどを疲弊させていた。
私は行き詰っていた。なにに行き詰っていたかって? ふむ、私は創作に行き詰っていたのだ。
創作――私はうだつの上がらない三流の物書きだった。東京の私立大学を6年かけて卒業したが就職はしなかった。
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