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惜しくも大賞は逃したが私の作品は最終選考に残った8作品のうちのひとつとなった。はじめて書いた小説に一定の評価が集まり、私は有頂天になった。若気の至り以外のなにものでもないが、私は自信過剰になった。
二度目の大学四年生のとき、満を持して二作目の小説を書こうと思い立った。書き出しはじつに順調だった。処女作のときと同様に言葉がつぎつぎと紡がれていく。それはまるで魔法のようだった。私は狭いワンルームマンションに閉じ籠り、昼夜となく作品を書き続けた。
ところが二作目は執筆の途中で破綻してしまった。私は言葉を失った。はやくも枯渇してしまった自分の才能の上限を知り、おおいに落胆した。私はきっとあまい夢をみていただけだったのだろう。
『不透明な巡礼』のときに発揮された直観と怒涛のごとき創造力はサハラ砂漠の不毛な砂丘のごとく枯れ果ててしまったようだ。
私は懊悩のまま、続く一年を茫洋と過ごした。そんななか大学を無事卒業できたことが不思議でならない。小説への情熱が霧散した私は、その腹いせに勉学へと意識をシフトしたのかもしれない。
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