灰色の町 1

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 私は一瞬、彼の本意を計りかねた。あの予想外のどんでん返しがあるからこそ、物語はより一層、輝きをまし、驚愕のままに最終章が締めくくられるというのに。  私はどうしても納得がいかなかった。私は坂田に返信を書き、ラストはそのままにして、少し中だるみ気味の中盤部分に新たなエピソードを挿入し、よりラストが映えるように内容に書き直すのはどうか、と提案した。  一週間後に返信をよこした坂田は、私の意見をやんわりと否定したうえで、多忙なため『不透明な巡礼』の件は一旦保留させてほしいと書いてきた。私は愕然とし、自然と流れる涙とともに手許にあったスマホを壁に叩きつけた。  坂田との一件以来、私は単純に書けなくなった。書こうとすると邪推と怒りがこみあげてくる。私は自分の創作のあり方に疑念を抱くようになった。坂田のいう通り、小説のラストを変更していたら、彼の意見に安易に迎合していたら、もしかすると『不透明な巡礼』は日の目を見たのではあるまいか?
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