18人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
おまじないの言葉
通りすぎていく人の声、手を組み合って過ぎていくカップルたち。
それから、明らかにお客さんを勧誘しようとする商売っ気たっぷりのチャラチャラした男の人たち。
でもそれらの全てが私を通りすぎていった。
『私の事情なんて、誰も知らない。』
そう呟いてから、我ながら少し冷めた笑いがお腹の奥から込み上げてくる。
『そんなの当たり前じゃん。
さっきの通りすぎていく人たちの事情なんて、私は無関心だ。』
・・って。
私は、なるべく目立たない野暮ったいジーンズとよれよれのパーカー姿でフードを目深に被り、その様子をしばらく見ていた。
そうしていると、少し前まで人の声やざわつきをすごく感じていたのに、今はもう静かだ。
もうすぐ明るくなりそうな雰囲気を残しているこの噴水公園は、街中にある待ち合わせスポットだ。
夜の雰囲気をすっかり拭い去った繁華街のこの公園は、立ち止まる人もなく、まだ朝もやの中で自分自身の立場に戸惑っているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!