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ぼくから、未完成のきみたちへ
時計の針が「こんばんは」って挨拶をしている。
あれが「きをつけ」の姿勢になる前に、片づけに時間のかかる積み木やおままごとセットはおもちゃ箱に入れて、おトイレに行ったら絵本を読もう。
今日は何の絵本にしようかな。
ぼくが本当に読みたいのは「鉱石合体ジュエレンジャー」の本だけど、保育園にはそういう本は置いてない。
そして、保育園のおもちゃ箱にはジュエレンロボがない。ぼくのおうちにはジュエレンロボが4つもあるのに。
面白くない本棚、ワクワクしないおもちゃ、それでも保育園が楽しいのは、おうちにはないものがたくさんあるからだ。
はなちゃん、こたくん、りりぽん、よっち、なぁちゃん、てっぺー、、、あとせんせいたちも。
「はやとくーん!ママ来たよー!」
「はーい!」
ほらね、時計の針が「きをつけ」の姿勢になりそうでなれない頃に、ママは来るんだ。
「はやとくんまたね。」
「りりぽんまたね」
「はやとくん、あしたぼくジュエレッドのくつしたはいてくるぜ」
「じゃぁぼくはジュエブルーはいてくるね、てっぺーくん。」
「ばいばい」
「ばいばい」
まだおうちの人がお迎えに来ていないみんなと、先生たちにばいばいをして、ぼくはママと手をつないで夜の手前の道を歩く。
「パパは?」
「残業で遅くなるって。」
「じゃぁ、よるごはんはふらいどちきんにする?」
ぼくは“ザンギョー”とかいう言葉が割と好きだ。
パパが“ザンギョー”のとき、ママはおさぼりで時々夜ごはんをフライドチキンやピザにする。
ママが“ザンギョー”のとき、パパは内緒でソファでアイスを食べながらいつもより多くテレビを見せてくれたりする。
“ザンギョー”は特別だ。
「それもいいけどね、キャベツと玉ねぎが傷む前に食べちゃいたいの。コンソメスープでいいかなぁ」
「ぼく、ママのこんそめすーぷすきだよ」
「はやとが好きなのはコンソメスープじゃなくて、お肉こねこねでしょ」
「うん、まぁそうなんだけど」
「お肉をこねこねするのは、はやとにお願いするね」
「うん、いいよ。じゃないと、ママへんなものまぜるから」
「なによそれ、好き嫌いすると強くなれないのよ」
このまえ、ママはコンソメスープのお肉にほうれん草を刻んだやつを混ぜたんだ。
見た目も気持ち悪いし、歯に挟まるし、飲み込んだ後ちょっぴり苦くて最悪な気分だった。
もうあんなことはさせないぞ。
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