しあわせ

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 あれから、何をするにもあの言葉がまとわりつくようになった。常にどうしようもない不安に駆られて、何も信じられなくなって、家族の顔ですら真っ直ぐ見られなくなった。  家族は、私の様子がおかしいと、心配しているようだった。  心配はかけたくない……けど、気持ちの整理がどうしてもつかない。  つらい。  知らなくてよかったのに、どうして、あの人は私にそれを教えたんだろう。  ……あの様子だと、馬鹿っぽいあいつも知っていたのだろうか。  私は確実に、あの時の、 あの言葉に呪われていた。  ——それから、どれだけの時間が過ぎたのだろう。  呪いは未だ、解けないまま。  だけど、段々あの痛みには慣れていって、当時のように怯えることはほとんどなくなった。  ……でも、どれだけ痛みに慣れても、ふとした時に感じる、心に冷たい風が吹くような感覚(寂しさと言うのだろうか)にはいつまでたっても慣れなかった。  最近で一番それが酷かったのは、姉が家から居なくなった時だった。  姉は最後にたくさん私を撫でて、抱きしめて、私にはわからない言葉と、愛情をいっぱい投げかけて、それで、帰って来なくなった。  それなのに、お父さんもお母さんも、私みたいにつらそうにしてなかったのは、姉がたまに帰って来るということを知っていたからだろう。  そうしてたまに帰って来たその日にだけ前の日常が戻って、そしてまたどこかへ行ってしまう。  余計に寂しいという気持ちが膨れ上がる。  そんなにすぐサヨウナラをしなきゃいけないくらいなら、いっそ帰って来ないでくれと、そうとすら思ってしまう。  ……いつか、父や母もどこかへ行ってしまうんじゃないか。  そんなことは考えたくなくて、考えないようにしたくて、やっぱり私は公園に行っていた。  そんなある日。  私は理解した。  本当の意味で一番先にどこかへ行ってしまうのは、自分なのだと。  どうしてか——ああ、どうしようもなく。私は……寂しかった……。  こんなに寂しいのは、初めてだった。  もうずっと、会えない気がした。  お父さんにも、お母さんにも、お姉ちゃんにも、馬鹿っぽい喋り方のあいつにも、いつの間にか消えちゃった頭のいいあの人にも。  ……もう、どんなに頑張っても、会えない気がした。どんどん遠のいていく気がした。  別れの気配は、日に日に強く、大きくなっていった。
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