おやすみなさい、

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 おやすみなさい。  そうつぶやくだけで相手を永遠の眠りに誘ってしまうようになったのは、いつからだっただろう。  おそらくその力を最初に使ってしまったのは、十歳の時だった。寝る前に飼い犬にそう声をかけると、次の日には冷たくなっていたのだ。でも、その時は私が原因とはわからなかった。  確信を持てたのは、その数ヶ月後、姉が死んだ時だった。姉は幼い時に死んだ両親の代わりに、朝から晩まで働いて私を育ててくれた。普段家にほとんどいない彼女が珍しく休みだったその日、私は「おやすみなさい」と彼女に声をかけてしまったのだ。  次の日、目を覚まさなかった姉を見て、私は唐突に自分の呪われた力に、犯した罪に気がついた。  そして、もう二度とその言葉を言わないことを決めた。  その後私は成長し、恋人ができた。彼と幾度夜を共にしても、あの言葉は決して言わないよう気をつけた。私はもう、誰も死なせたくなかったのだ。  しかし数年後、彼は不治の病にかかった。彼は今まで見たこともないような苦悶の表情で、これ以上苦しみたくない、もう生きたくないと言う。  だから。  だから私は、あの言葉を彼の枕元でつぶやいた。  ――おやすみなさい。  彼は安らかな笑みを浮かべて、永遠の眠りについた。
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