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レンジでチンして食って下さい、と袋の奥底にいたせいで歪んでしまった黄色いメモ紙が顔を覗かせる。
唐揚げに齧りついていたきさらぎまことは、それを横目に見つけてしまった。僕のいうことは絶対聞いてください生活面に関わりますから、と念を押されて早数年。無視をするわけにも行かず、黙って立ち上がる。なかなか開いてくれない。主のいうことは遮りたいと言う様子。
字を書くときはいつも右手の彼でも、握力は一般男性の標準数値を優に越えている。
ふん、と力加減を間違えないようにレンジの扉を開け、食べかけの唐揚げ弁当は回るお皿に置かれる。扉は閉められ久しく押されるスタートボタン達。
待っているのは、窓枠では収めきれない広大な海。いつ見ても鮮やかで、青く透明にきらきら輝く、誰が見ても手を伸ばしたくなる絶景をこの男は独り占めしているのだ。
嵐のあとの海は綺麗だという。きさらぎまことの場合は嵐のあとに綺麗な人に出会った、ということになる。嵐ではないのだが。
茫然としていてもレンジは温め終わったことを音で知らせる。
その知らせを頼りにレンジの元へ歩く。温まったお弁当を手に持ち、インクで変色してしまった机に置く。その場を置いて、常備してある水をやかんに注ぎ、火を点ける。
赤く、青く燃える炎が焦げをつくろうとしている。
まだ朝は寒い。
味噌汁のひとつでも飲みたくなったのだろう。棚田は電車の中で感謝をしてほしい、と嚔など知らぬ存ぜぬの顔をしていた。
お礼の言葉とか母のお腹の中に忘れたと言った顔で朝御飯を食べていた。
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