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▪自殺未遂
幼い頃から自殺をしてみたいと思っている。
母は、マンションから飛び下りた。
父は、駅のホームから飛び下り電車に跳ねられた。
死体はどちらも酷い有様だった。
叔父や叔母が玄関先で警察の人と話していた。
優しくしてくれた。
祖母は急須で容れたお茶が好きだった。
そして、こんなことも言っていた。
茶葉は時間が経つと毒になるから飲んではいけないよ。
湯を注ぐとき、よく注意をされた。
高校生にもなり、叔父に頭を下げて一人暮らしを始めた。
自由な生活に謳歌していたときだった。
越したばかりのよく分からない土地をさ迷っていた。
新聞紙で遮断されている窓ガラス。
鍵は閉められていた。
砂埃を被った横長の本棚と、破れた本が十冊点々と転がっている。
中身のない玄関マットの上には小皿が数枚。
呼吸が楽になった。
三人で暮らしていた部屋を思い出す。
室外機の前にある古そうな木の丸椅子に座った。
膝を伸ばして、リラックスしていた。
すると、閉まっていたはずの扉が不気味な音を起てた。
その日はよく晴れていた。
此奴と目が合って動けなくなった。
呆然としている俺に近づき、キスを落とした。
それからはところ構わずキスをした。
気づけば服は脱いでて、致してることもしばしば。
「トレーニングでもしてんの」
薄暗い俺の部屋のベッドの端で煙草を吹かした無駄に大人びている背中を指でなぞると分かりやすく仰け反る。
「これといってしてない」
セックスのときは、もっと余裕がなくて、だらしなく歯を見せて気持ちよさそうに喘ぎ、離れなくなる。
異性からは騒がれ、同性からは羨ましがられるほどの顔を持っているというのに。
学校にいる此奴はよく笑い、よく動いている。
校舎にある紅葉はとても綺麗で目が離せなくなる。
急須で容れたお茶を湯呑みに注いでも茶柱は立たない。
煙草は火をつければ煙が立つ。
俺らは、必要のないものを神様に与えられてしまった。
Fin.
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