あの子の涙。

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ーぽつり。  雨が降ってきた。空を見上げる。空は明るいのに、なんで降るんだろう。少し残念な気持ちになる。前に誰かが言っていた。「雨はあの子の涙なんだ」って。だから、私にはどうにも出来ない。「あの子」が泣く理由も私には分からないんだし。そもそも「あの子」って誰なんだろう。  雨は直ぐに止むかもしれないし、このまま本降りなるかもしれない、それに夕立かもしれない。傘を持たない私は「あの子」が早く泣き止んでくれる事を、祈る事しか出来ないの。 ーぽつり。  あ、まただ。あれから雨が降ってばかり。毎日降っているから、雨がそれ程嫌ではなくなっていた。「あの子」と共に生きるのも悪くはないかな。余り泣かないで、と思う時もある。それにしても、今日の雨は酷く降っている。夕日は赤く綺麗なのに、雨は容赦がなかった。  私は座っていた白い椅子から徐ろに立ち上がると、夕日と雨を全身に浴びていた。それがなんだかとても心地良く感じられる。顔が、とても強く打たれている。目が開けられないくらい。そのままの姿勢で暫く立ち尽くした。いつまでもこうしていたい。   なんだろう。とても身体がふわふわしてきた。でも、目を瞑ったままだから周りを確認出来ない。突如、雨の量で息も出来なくなる感覚が襲ってきた。意識を失いかけてしまう様な。  ハッとして目を開けようとした。瞼は重く視界もぼやけた。ここは?私は何をしてた?何も思い出せなかった。視界がはっきりして来ると、周りには沢山の機械が置かれているのが見えた。身体を起こそうとしても、私の身体はびくともしなかった。動くのは目だけだった。  状況が全く分からず、不安が押し寄せた。周りの機械を見ようとまた目を動かす。その視界にいきなり母の顔が映った。母は泣いていた。何かを話しているが聞こえなかった。  時間と共に耳も聞こえる様になった。身体はまだ動かないし、唇は動くが声は出ない。母が状況を説明してくれるというので、目線を母に集中させた。  3週間前に交通事故に遭った。意識が戻らなかった事、身体は元通りに動かないかもしれない事。記憶がない私には何ともショックの大きい話だ。  母は毎日、お見舞いに来てくれていたらしい。私と母はふたりきりの家族。とても仲良く暮らしていた。それなのに、娘が交通事故とは母もショックだっただろう。母はお見舞いに来ては私に呼び掛けながら、泣き通しだったらしい。日に日に私がもう目覚めないかもと不安を募らせては泣いていた。家に帰ってもずっと泣いていた。確かに母の目は腫れている。それを見てわたしも泣いた。
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