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日も暮れ始め、暑さが少し和らいできた頃、皆で一緒に祭り会場へ向かった。
茜は白地に赤やピンクの金魚が栄える浴衣を着せられ、「見て見て~」とご機嫌で目の前をクルクルと回って見せる。一方俺は浴衣ではなく、紺地に縦縞の甚兵衛だった。父が子供の頃着ていたお古だが、こんな格好をさせて貰ったことのない自分にとっては、それが何だろうと嬉しかった。
いよいよ会場が近づいてくると、合流する人々で道幅がいっぱいになる。辺りは賑やかさを増し、どこからともなく祭囃子が聞こえた。人混みの先には日暮れの闇に負けまいと、夜店の白熱灯の明かりがこれでもかと辺りを照らしている。
「お兄ちゃん! わたあめ!!」
茜がそう叫び、突然甚兵衛の袖を引っ張って駆け出した。人混みではぐれてしまわないよう、必死にその後を追う。祖父母の「気をつけなさいよ」という言葉を背に受けながら。
何度か人にぶつかりそうになって、やっとわたあめ売り場に辿り着いた頃、油断して誰かの足を思いきり踏んづけた気がした。
「ご、ごめんなさい!」
思わず謝って顔を上げると、相手は着物姿の男だった。よく見ると首には紐が巻き付いており、その紐は上に向かって伸びているが途中で消えている。そして瞳は白目を剥いていて、全身がモノクロ写真のように色合いがなかった。
(これは……生きてない人だ)
浴衣を着ている人が多くて気づけなかったが、おそらく着物の時代に亡くなった人の霊だった。首に巻き付いている紐から、自殺者かもしれない。辺りをよく見回すと、そのような色合いの人間がちらほらと人混みに混ざっているに気づいた。
お祭りのような人の多く集まる楽しげな場所には、既に亡くなった人々も集まってくるのだ。
男は俺の声に振り返ったが、目線を合わせないようにしてすぐに茜の元へ駆け寄った。
「お兄ちゃん、お祖母ちゃんは?」
「え?」
後ろを振り返ると、祖父母の姿が見当たらない。
(ヤバいな……。もう迷子か?)
「わたあめ、食べれない?」
悲しそうな声で茜が言うので、なけなしの小遣いから五百円玉を一つ取り出し、わたあめ屋のお兄さんに渡した。受け取ったわたがしを渡すと、茜は満面の笑みで「ありがとう!」と返す。
釣られて笑顔になりかけた時、耳元で「良かったな」と囁く男の声がした。咄嗟に振り向いたが、そこには誰も居ない。
いっせいに身の毛がよだち、茜の手を取ってすぐにその場から離れた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「はぐれると帰れなくなるから、手を放しちゃダメだぞ」
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