水死体のあがる街

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「署に戻る前に、何か食っていかねえか」 「えっ、アレ見た後に良く食べられますね。僕は飲み物だけで十分です」 「全く情けねえな。何年刑事やってんだか」 「僕は塩浦さんと違ってデリケートなんですよ」 「何言ってんだよ。焼き肉に連れていっちまうぞ」 「マジ勘弁して下さい。ハ、ハクション!」 「どうした、仏さんたちが噂でもしてんじゃないのか」 「笑えないからやめてくださいよ。昨日、夕立ちに降られて風邪気味なんだと思います」  確かにここ二週間くらい、午後になると急に黒い雲が出てきてスコールを思わせるような激しい夕立ちが、短い時間だけ降っている。傘をさしても、道路からの跳ね返りだけでズボンがビショビショになるレベルだ。日本は年々平均気温も上がっているし、東南アジアと同じ様な気候になっちまったのかね。 「なんだ、それなら飯やめて、早く署に戻って家に帰った方がいいな」  そう言って、車を署に向けて走らせた。報告書は自分がやるからと木崎を半ば強引に帰宅させて、自分のデスクに散乱している資料に目を落とした。今日の仏さんを含めて、この二週間で十一人が水死体で見つかっている。年齢も性別も発見された場所も全く違っている。私怨の線も考えたが、全く接点は見つからなかった。それでも、どこかに共通点があるはずなんだ。これは勘だ、長年刑事をやっている勘だ。
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