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「日が落ちたのに少し暑いね」
「そうだね」
弓月さんの顔を覗き込み名前を呼んだ。
「大咲くんはいつも明るいよね。私は小さな事でも直ぐに落ち込んじゃうのに」
「いつも明るく笑顔でって姉ちゃんに言われてるんだ。俺さ、単純だから泣いてる人とか虐められてる人がいると助けたくなっちゃうんだよね。だから、弓月さんにも俺の前では笑顔で居て欲しいなって。もちろん、その為ならどんな馬鹿なことでもするよ」
思わず弓月さんの頭を撫でてしまった。彼女は、大咲くんを好きになってたら、きっと悩んだりしなかったのかなと言って無理して微笑む。
「じゃ、好きになってみる?」
冗談半分でそう言ってみると、もう、何言ってるのと返されてしまった。
「ごめんごめん、もちろん冗談だよ。弓月さんが翔太先輩を本当に好きなことも知ってるし、あの人、怒らせたら怖そうだから弓月さんを口説くなんて恐ろしいこと俺には出来ないよ。それに弓月さんが幸せなら俺も幸せなんだ」
また冗談交じりにそう言って立ち上がり、さ、そろそろ帰ろ。送るよと続けた。その後はお互いに何処か気まずくなってしまい無言のまま弓月さんの家に着いてしまった。
「えっと、ありがとね」
「うん、大丈夫だよ。また明日」
小さく俺に手を振り帰って行く。そんな弓月さんを見送ってから自分の家に帰った。
「姉ちゃん、ただいま」
「お帰り、夕飯出来てるぞ」
リビングに入るとするめを咥えながら晩酌中の楓姉ちゃんがテレビを見ていた。
「何だ、陽介。良い事でもあったのか」
「べ、別に何も無いよ。何でさ」
楓姉ちゃんにそう聞かれて思わず裏返ってしまった。
「陽介はわかりやすいからな。顔に何かありましたって書いてあるぞ」
「書いてない、書いてない。変なこと言うのやめてよ」
精一杯誤魔化して、着替えてくると自室に向かった。
「勘が良すぎなんだよな、姉ちゃんは」
楓姉ちゃんには変な期待をさせたくなかった。
他人から見ればサバサバしているように見える楓姉ちゃんは本当は弟の心配ばかりしてしまっているのを俺は知っている。
ー続くー
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