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第二話 俺の女
翌日、講義は午後からだったから朝は少しゆっくりと起きた。リビングに行くと楓姉ちゃんは仕事に行っていてもう居なかった。
昼食は学食に行こうと思い、身支度を直ぐに済ませて大学に向かう。
「陽介、今からか」
学食の看板を見ながら何にしようかと悩んでいると健に後ろから声をかけられた。
「おはよ、今日は午後から講義なんだ。健は?」
「俺は午前だけだったから昼飯食って帰るとこ」
そのままの流れで健と中に入った。
「そういや、この話知ってるか」
「何の話さ」
健は真剣な表情で古典の早川、生徒に手出してそれが奥さんにばれて離婚調停に入ったらしいと話した。
その話を聞いた俺は健がそんな話をする事は珍しい。いつもはとにかく他人に興味が無くて、けだるそうにしているのにどうしてそんな話をするのだろうと思った。
「早川の奴、今度は弓月さんを狙ってるらしい。この前、弓月さんの後ろを着いて回ってるのを見た。気づかれないようにしてたみたいだったけど、誰が見ても気持ち悪いぐらいだった。まあ、そん時は俺が見ていたのに気づいて逃げていったけど」
そう続けて話す健に俺は弓月さんの心配をしていた。
「教えてくれてありがとう」
俺はそう言い残し、翔太先輩に伝えた方が良いと思い急いで学食を食べて翔太先輩を探しに行った。
「もう、翔太くんったら本命の子が居るのにそんな事を言ったら駄目だよぉ?」
「良いじゃん、あいつは本命じゃねえもん。顔が良いから横に置いておくにはちょうど良いんだよ。ほら、あいつさ、一応ミスコン優勝者じゃん。俺みたいに顔がいい男はそれなりの女じゃ釣り合わねえんだよ。けど、あいつ、結局は顔だけなんだよな」
翔太先輩を見つけて声をかけようとした時、弓月さんではない女の人と一緒に居て冗談っぽくそう話しながら相手の人の肩に腕を回している所を見てしまった。
「うわあ、彼女さん、まじ可哀想なんだけどぉ。ま、私には関係ないからどおでもいいけど」
悲しくなるのを抑えて冷静に翔太先輩に声をかけて腕を取り無言のまま読書サークルの部室に向かった。
「いきなり何すんだよ。気安く触るな」
「女の子と絡んでる場合じゃないです。弓月さん、古典の早川に狙われてるらしいです」
翔太先輩に腕を振り払われて睨まれた。
「で?」
「で、じゃないです。心配じゃないんですか」
俺の言葉に翔太先輩は大きく溜息をつく。
「別に良いじゃね。早川に言い寄られて犯らせるぐらいなら、美影もそれだけの女だったって事だろ。それにあいつだって自分が目立ちたかったから去年のミスコンなんかに出たんだろうよ」
その言葉にどうにもならない苛立ちを覚えて気がつくと冷静では居られなくなっていた。
「どうしてそんな事を言うんですか。彼女が本命じゃないからですか。彼女は本命じゃないって薄々気づいているけど、本気で翔太先輩のことが大好きだからどんなに寂しくて不安でもいつも我慢してるのに。翔太先輩だって、彼女の気持ちには気づいてるんでしょ。俺には翔太先輩の事がわかりません」
「別にさ、お前なんかに理解して欲しいとか思ってねえんだわ。調子乗ってんなよ」
少し声を荒げるようにそう言うと翔太先輩に殴られて口の中に鉄の味が広がる。
「これ以上、弓月さんの事を傷つけないであげて下さい。俺はただ、翔太先輩が何をしていたとしても彼女が幸せならそれで良いんです。だから、そんな言葉を吐かないであげて下さい」
「お前さ、あいつのナイト気取りか。俺があいつのことをどう思おうがどうしようがお前には関係ねえ。良いか、あいつは俺の女であってお前のじゃねえ。だから、俺のものに何しようが文句言われる筋合いねえんだよ」
冷静な表情でそう言うと部室を出て行ってしまった。
確かに弓月さんは翔太先輩の彼女。だけど、何をやっても良いって訳ではないと思う。だから、翔太先輩が弓月さんを笑顔に出来ないならせめて自分が笑顔にしたい。
そんな事を考えながら午後の講義に出席した。講義中は弓月さんの事で頭がいっぱいになってしまってなかなか集中出来なかった。
ー続くー
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