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第三話 告白
「大咲くん、大丈夫?」
数時間の講義の後、部室に入るのをためらっていると弓月さんに声をかけられた。
「え、ああ、大丈夫だよ」
精一杯の作り笑いをする。彼女は心配そうに俺を見て、中に入るかと聞いてくれた。
「ねえ、弓月さん。今日さ、サークル二人でサボっちゃおうよ」
衝動的にそう言って戸惑う彼女の手を引き、走って大学の校舎を出る。
「あの、待って」
少し息を切らしながらそういう彼女の声を聞こえないふりをして繫いだ手を少し強くする。
「ねえ、待ってって、大咲くんっ」
大学の最寄り駅の改札前で弓月さんは立ち止まり繫いだ手を振り払った。
「どうしたの、なんか変だよ。いつもの大咲くんらしくないよ」
彼女の顔を見ると苦笑いをしている。
「ごめん、いつもの俺って何。どんな俺が弓月さんにとっていつもの俺なの」
「だってほら、大咲くんはいつも優しくて、明るくて」
戸惑いながらそう言葉にする彼女は心配そうに俺を見る。
「そうだよね、弓月さんにはそういう俺しか見せてないからそう思うのは当たり前だよね。でもさ、俺だって本気で惚れてる相手の悲しむ姿なんてこれ以上見たくないんだ。ただ、笑っていて欲しいだけなのに、幸せでいて欲しいだけなのに、それも叶わないなら俺が君を奪い去って笑顔にしたい、幸せにしたい」
「大丈夫、私はちゃんと幸せだよ?」
そう言って微笑む彼女を見ていられなくて、思わず強引に手を取り引寄せて抱きしめてしまった。
「もう、そうやって無理して笑わないで。ねえ、弓月さん。俺は、翔太先輩より君を幸せに出来る自信がある。笑顔にしてみせるから。だから、俺に君を奪わせて欲しい」
「えっと、突然そんな事を言われてもなんて返事をしたら良いのかわかんないよ。私は先輩の彼女なんだよ。先輩を裏切るような真似、出来る訳ないよ」
声を震わせてそう言葉にする彼女にそれ以上何も言えずに側を離れた。
「ごめん、そんな顔をさせるつもりはなかったんだ。本当にごめん」
弓月さんの事を見られなかった。その場を走り去ることしか出来なかった。
ー続くー
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