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第四話 親友と頼りたい人
それから一ヶ月程、弓月さんと顔を合わせづらくて避けて過ごしていた。
「健くん、カラオケ行こうぜ」
「最近毎日だな。弓月さんとなんかあったのか」
健が心配そうに聞いてくる。
「別に何もないよ。心配ありがとう」
そう返して笑ってみせる。
「あの、大咲くん」
健と講義室を出て行こうとすると弓月さんに声をかけられた。
「ごめんね。俺、これから健とカラオケに行くから、また今度」
逃げるようにそう言うと健を連れて講義室を出た。
「陽介、やっぱなんかあっただろ」
「だからなんもないって」
校舎を出てカラオケに着くと、また健に聞かれてしまった。
「嘘下手すぎ。お前さ、昔っから嘘がつけない性格してんだからいい加減正直に話せよ」
「いや、実はさ、弓月さんに告白してふられちゃった。やっぱり弓月さん、俺なんかより翔太先輩の方が良いみたい」
そう言って苦笑する俺を見て、弓月さんと気まずくなるなら言わなきゃ良かったとか思ってるのかと聞いてきた。
「わかんない。ただ、弓月さんを笑顔にしたかったんだ。でも、俺じゃ駄目みたい。その現実はわかっていたはずなのに、なかなか受け入れられなくて」
「そうか。俺は正直、弓月さんの事は興味ないしどうでも良いとすら思っている」
健の言葉に思わず、それは酷いよ。弓月さんは美人で性格も優しくて宇宙一可愛くて。そんな魅力のある人なかなか居ないのにと少し早口になりながら言ってしまった。
「まあ、落ち着いて最後まで聞けって。今、陽介が言ったことぐらいは俺だって知ってる。ただな、今は俺が弓月さんに興味ある無いは関係ないんだよ。俺は陽介がこの先、どんな決断をしても弓月さん関係で何があっても味方してやる」
健は真剣な表情でそう話すと飲み物を一口飲んだ。
「やばい、健好き。惚れそう」
「馬鹿か、やっぱ前言撤回。今すぐ忘れろ」
耳を赤くした健は下を向く。
「冗談だって。ありがとう、何か、元気出た」
それから少しの間歌ってから健と別れる。何となく直ぐに帰る気にはなれなくてゲームセンターで時間を潰していた。
そんな時、弓月さんから助けてと書かれたメールが届く。慌てて電話をかけたが出て貰えなかった。
「あ、やっと出た。弓月さん、何かあったの?」
「変なメールしちゃってごめんね、大丈夫だよ」
弓月さんはそれ以上話そうとしなかった。それでも事情をしつこく聞くと、途切れ途切れに早川教授に告白されて断ると逆上して襲われそうになったと話してくれた。
「ごめん」
何故か自然とそんな言葉が口から出ていた。
「謝らないで。大咲くんは全然悪くないよ。私の方こそごめんね。私、大咲くんに酷い事言って傷つけたのに、こんな時だけ頼ろうとしちゃった。でもね、ちょっといい訳させて欲しいな。早川教授に迫られた時、真っ先に浮かんだのが大咲くんの顔だったの。何でかはわからないんだけど、この前、大咲くんの気持ちを知って意識しちゃったのかも」
弓月さんは少し声を震わせながら話してくれた。
「俺を頼ろうとしてくれてありがとう」
素直に嬉しく思った。彼女が大変な時に自分という存在が心の隙間に入り込めていたという事実だけで今はもう満足だった。
「好きになった人が先輩じゃなくて、大咲くんだったら幸せだったのかな」
電話口でこちらに聞こえるかわからない程の小さな声でそう呟くと、大咲くんの声聞いたら何だか安心しちゃった。ありがとうと言って電話が切れてしまった。
ー続くー
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