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「すごいね」
電話の向こうから、上村くんの吐息のような笑い声が聞こえた。
「あんまり話せないんだけど……明日、日本に帰るんだ。また連絡していいかな」
胸が高鳴った。どんなふうに息をしていいのかわからないほどに。私はやっとのことで答える。
「……うん。待ってる」
沈黙が降りた。
何か言いたくて、迷っていた。
話したいことがたくさんあるようで、言葉が出ない。このままずっとつなげていたい。
星々がうつろう。
天という大きな星座盤のメモリを、見えない手が合わせるようだ。
少しずつ空が動く。行きすぎては戻る。何度も繰り返す。
上村くんが言った。
「……繭子さんは、もしかしたら、俺と同じことを感じてくれるんじゃないかと思ったんだ」
「多分、私も」
メモリが合った。そう思った。
じゃあ、と上村くんが言った。
これからも繰り返し聞くと思えたその言葉が、不鮮明な、雑音とともに耳に届いた。
「またね。……おやすみ」
「おやすみ」
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